みなさん、アメリカには歯科技工所がどのくらいあるかご存じですか?
アメリカの歯科技工所の数は、5,000〜10,000と言われています。この数字を聞いて、皆さんはどう思いましたか?
日本にある歯科技工所の数約20,000に対して、日本の国土の約25倍もあるアメリカ、日本の人口の約3倍のアメリカにある歯科技工所の数が、その 1/2 から 1/4 という事実に驚きませんか。
なぜ、アメリカの歯科技工所の数がこんなに少ないのか。それは、アメリカの歯科技工業界の最大の特徴である、デジタル化をテコに効率性と専門性を追求した「大規模ラボ(メガラボ)への集約化」にあります。
本記事では、そのアメリカの歯科技工業界を牽引する「メガラボ」について、現在入手可能な情報と業界での評価、売上額に基づき、トップ5をご紹介します。
注意点として、これらの企業の多くは非公開企業であるため、公式な売上高が毎年発表されているわけではありません。そのため、下記の数値は業界レポートや公開されている情報に基づく推定値を含んでおり、報告年度によって変動する可能性があることをご了承ください。
アメリカのメガラボ Top 5
1位:Glidewell Laboratories(グライドウェル・ラボラトリーズ)
推定年間売上高: 10億ドル以上 (約1,500億円以上)特徴:
業界の絶対的巨人: 名実ともに世界最大級の歯科技工所であり、従業員数は5,000人を超えます。アメリカの歯科業界で圧倒的なシェアと影響力を持ちます。
垂直統合モデル: 技工物の製作だけでなく、ジルコニアブロック「BruxZir®」に代表される歯科材料の開発・製造から、歯科医師向けの教育プログラムの提供、技工用ソフトウェアの開発まで、幅広い事業を手掛けています。
技術革新のリーダー: CAD/CAM技術や3Dプリンティング技術への投資を積極的に行い、デジタルデンティストリーを業界の標準へと引き上げた立役者です。
2位:National Dentex Labs (NDX)(ナショナル・デンテックス・ラボ)
推定年間売上高: 約7億5,000万ドル (約1,125億円)特徴:
巨大ラボネットワーク: 全米に広がる多数の歯科技工所を傘下に持つ、国内最大のラボネットワークです。2021年に大手ラボグループであったDental Services Group (DSG)を買収し、その規模をさらに拡大しました。
地域密着と規模の経済性の両立: 全米各地のローカルなラボが持つ歯科医師との緊密な関係性を維持しつつ、グループ全体での材料の共同購入や最新技術の導入による効率化を両立させています。
幅広いサービス提供: 小規模な歯科医院から大規模なDSO(Dental Support Organization/歯科医院経営支援組織)まで、あらゆる顧客のニーズに応える多様な製品ラインと価格帯を提供しています。
3位:Aspen Dental(アスペン・デンタル)
推定年間売上高: (ラボ事業単体での売上は非公開) ※特徴:
DSO内製型ラボの最大手: 全米で1,000以上の歯科医院を運営する最大級のDSOであり、その多くの医院内に歯科技工所を併設、またはセントラルラボで技工物を集中生産しています。
義歯(デンチャー)に強み: 特に、即日での義歯の製作や修理を可能にする体制は同社の大きな特徴であり、患者への訴求力となっています。
垂直統合のビジネスモデル: 歯科医院の運営から技工物の製作までを一貫して手掛けることで、コスト管理とサービスの迅速化を実現しています。
※ラボ単体の売上ではないため単純比較はできませんが、その事業規模と技工物取扱量から業界トップ3の一角と見なされています。
4位:Modern Dental Group(モダン・デンタル・グループ)
推定年間売上高: (北米事業の売上として数億ドル規模)特徴:
グローバル展開: 香港に本社を置く世界的な歯科技工グループで、北米(アメリカ・カナダ)でも大きな存在感を示しています。
高品質な製品ライン: 特に審美修復物やインプラント関連技工物において高い評価を得ています。
デジタルソリューション: 「TRIOS Ready Lab」として口腔内スキャナーからのデジタルデータ受注に積極的に対応するなど、デジタルワークフローの構築に力を入れています。
5位:Affordable Care (Affordable Dentures & Implants)
推定年間売上高: (ラボ事業単体での売上は非公開)特徴:
義歯とインプラントに特化: Aspen Dentalと同様に、義歯とインプラント治療に特化した歯科医院を全米で400箇所以上展開する大手DSOです。
院内ラボによる迅速化: ほとんどの提携医院に歯科技工所が併設されており、患者は治療当日に技工物を受け取ることが可能です。
価格競争力: 「Affordable(手頃な価格)」というブランド名の通り、効率的な院内ラボの活用により、義歯やインプラントを低価格で提供することを強みとしています。
最後に、日本ではあまり馴染みのない DSOについて説明します。
DSOとは?
DSOは “Dental Support Organization” または “Dental Service Organization” の略称で、日本語では「歯科医院経営支援組織」と訳されます。 これは、複数の歯科医院と契約し、治療以外のあらゆるビジネス業務(非臨床業務)を代行・サポートする企業体のことを指します。
DSOが提供する主なサポート業務
人事・労務: スタッフの採用、給与計算、福利厚生の管理
経理・財務: 会計処理、請求業務、資金調達
マーケティング: 広告、ウェブサイト運営、新患獲得活動
購買・調達: 歯科材料や医療機器の大量一括購入によるコスト削減
法務・コンプライアンス: 法規制への対応、許認可の管理
ITシステム: 予約システムや電子カルテの導入・管理
DSOの目的とメリット
DSOの最大の目的は、歯科医師を煩雑な経営業務から解放し、患者への治療という本来の臨床業務に専念させることにあります。
これにより、以下のようなメリットが生まれます。
歯科医師にとって: 経営の心配なく、質の高い医療の提供に集中できる。
歯科医院にとって: 経営が効率化され、コスト削減や収益性の向上が期待できる。
患者にとって: 歯科医師が治療に集中することで、より良い医療サービスを受けられる可能性がある。
メガラボとの関係
前の話題で出てきたAspen DentalのようなDSOは、傘下に多数の歯科医院を抱えています。そのため、使用する技工物を自社で大規模に内製化したり、特定のメガラボと独占的に契約したりすることで、スケールメリットを活かした大幅なコストダウンを実現しています。 このように、アメリカの歯科業界ではDSOの存在感が年々増しており、歯科技工所の集約化・大規模化を促進する大きな要因の一つとなっています。
次回の記事では、アメリカの技工士の資格「CDT (Certified Dental Technician) 」について、ご紹介します。
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