一生の恩師との出会い
卒業後は、どんなキャリアを積んできたのですか? ― 知人の紹介で、東京の表参道にある土屋覚さんのDent Craft(以下、デントクラフト)という歯科技工所で働けることになりました。最初に入った職場で歯科技工士としてのスタイルが決まってしまうことが多いと思うので、今思うと、技工士になって最初に土屋さんの仕事を間近で見られたことは、本当にラッキーだったと思いますね。
ラッキーというと? ― 土屋さんとの初対面は「衝撃」の一言でした。それまで自分が知っていた技工士とは雰囲気が全然違ったんです。独特なオーラがあるっていうか、人としてとにかく魅力的だったんです。そして、土屋さんのラボの中を見回してみると、当時は今ほど全盛ではなかったインプラント技工物がゴロゴロあって。その圧倒的に精度の高い技工物を見て「本当にいつか、自分にこんなものが作れるようになるのか!?」とビビりましたね(笑)土屋さんには、技術的なことだけじゃなくて、技工士の仕事に対する心構えや考え方など、歯科技工士として必要なことを全て学ばせて頂きましたね。もちろん今でも多くのことを学ばせて頂いていますし、私にとって文字通り、「一生の恩師」ですね。実際に仕事をしてみて、歯科技工士の仕事はどうでしたか? ― デントクラフトは保険の技工物を作っていなかったので、求められるレベルが高く、毎日必死でした。自分は31歳で技工士になったのですが、自分で言うのも気恥ずかしいけど、最初の5年間は歯を食いしばって誰にも負けないくらい努力をしたと胸を張って言えますね(笑)とにかく技工士として一日も早く上手くなりたくて、家に持ち帰ってまで仕事をしてましたからね。さすがに家にまで持って帰る技工士は、なかなかいないと思いますよ(笑) ― あまりいいことじゃないんだけど、当時は毎日、起きているのか寝ているのか、分からないような生活をしてましたね。職場で土屋さんの仕事を見て、その技術を盗んでは試す、毎日、その繰り返しでした。変な癖がつかないように、削るバーの角度や当てる強さ、使っている道具の種類など、仕事をしている土屋さんの全てを、よ~く観察していましたね。
向上心がなくなって納得したら、そこで終わり
その後、独立して開業することになったと思うのですが。 ― そうですね。約10年間、デントクラフトでお世話になり、その後、独立させて頂きました。今、特に心がけていることは、「志をもったドクターと仕事をすること」です。「このくらいでいいかな」と妥協するようなドクターと一緒に仕事をしても、仕事があまり楽しくないんです。せっかく歯科技工士になって技術を磨いてきたのだから、ドクターとパートナーのような関係で、一緒に技術を極めていきたい、そんな想いを持って仕事をしています。