第14章 開業後、どうやって軌道にのせるのか?

はじめに

歯科医院を開業した後、早期に経営を軌道に乗せることは、安定した事業運営のために非常に重要です。 特に、初期投資が大きい歯科医院では、開業から3〜5年以内に開業資金を回収する明確な目標を立てる必要があります。

本記事では、開業直後の経営戦略から患者さんのアポイント管理、自費診療へのアプローチまで、具体的な方法を解説します。

歯科医院のビジネスモデルと損益分岐点の重要性

参照元:acwest株式会社

損益分岐点とは?

損益分岐点とは、売上が経費(固定費+変動費)を上回り、利益が出始めるポイントです。この分岐点を超えないと赤字になってしまうため、早期に達成することがとても重要です。

固定費型ビジネスと変動費型ビジネスの違い

変動費型ビジネス
売上やサービス量に応じて発生する費用が大きいビジネスモデル。
例: ネット通販、飲食店、派遣業など
特徴: 売上が少ない場合でも赤字になりにくいが、売上が伸びても利益の伸びは緩やか。
固定費型ビジネス
売上にかかわらず、事業運営に一定のコスト(固定費)がかかるビジネスモデル。
例: 鉄道会社、製造業、ITサービス業など
特徴: 売上が少ない場合に赤字のリスクが高いが、売上が伸びるほど利益が大きくなる。

歯科医院が「固定費型ビジネス」である理由

1. 初期投資が大きい
歯科医院を開業するには、高額な設備投資が必要です。これらの設備は一度購入すると、患者数に関係なく維持費がかかります。

診療ユニット(椅子や器具のセット)
数百万円〜1,000万円以上
デジタルレントゲンやCT
数百万円〜数千万円
内装や設備
開業立地や規模によっては1,000万円以上
2. 高額な人件費
歯科医院では、歯科医師、歯科衛生士、受付スタッフなど、専門知識を持った人材が必要不可欠です。そのため、人件費は患者数にかかわらず発生します。人材を雇用し続けるには、安定した収益基盤を早期に築く必要があります。
3. テナント費用や運営コスト
歯科医院の多くは、アクセスの良い場所にテナントを借りて開業するケースが多いです。そのため、毎月のテナント賃料や光熱費なども固定費として発生します。
4. 固定費の割合が売上に対して高い
変動費型ビジネスでは、売上に比例して費用がかかりますが、歯科医院の変動費は比較的少ないです。

例えば技工料(入れ歯やクラウンの外注費用)などは、患者数が増えれば増えるほど増加しますが、それ以外の多くの費用(設備、人件費、賃料など)は患者数に関係なく一定額が必要です。

固定費型ビジネスである歯科医院の課題と戦略

固定費型ビジネスである歯科医院では、経営が軌道に乗るまで赤字になるリスクが高いという課題があります。この課題を乗り越えるためには、明確に戦略を練ることが重要です。
早期に損益分岐点を超える
開業後2〜3ヶ月以内に※月280〜350万円を売り上げることを目標にすると良いでしょう。早期に黒字化するためにも、初期投資を怠らず、内覧会やリスティング広告を活用して新患を獲得することが重要です。
※売り上げは、標準的なモデルケースを元に試算しています。
一定の患者数を安定して確保する
保険診療を基盤として安定収益を確保し、そこに自費診療を加えることで収益を伸ばす。
効率的な運営を行う
診療のスケジュール管理やアポイントの調整を徹底し、1日に診療できる患者数を最大化する。

アポイント管理の工夫と患者さんの時間帯別特性

アポイントの管理は、効率よく患者さんを診療し、医院の収益を最大化するためのカギです。特に、埋まりにくい時間帯を埋める工夫が必要です。

時間帯別の予約傾向

歯科医院の予約は、時間帯によって偏りがあるため、これを理解し工夫することで、効率的に診療スケジュールを組むことができます。特に、予約が入りやすい時間帯と入りにくい時間帯の特性を活かして対応することがポイントです。
予約が入りやすい時間帯: 平日夕方(17時以降)や土日
学校や仕事が終わった後、または休みの日に通いたい患者さんが多いため、これらの時間帯は予約が埋まりやすい傾向にあります。
予約が入りにくい時間帯: 平日午前中やお昼前
平日の早い時間帯は、特に働いている方や学生にとって来院が難しい時間帯です。そのため、これらの時間帯には予約が空きがちです。

効果的なアポイント管理の方法

予約が入りにくい時間帯に患者さんを誘導することで、医院全体の診療効率を向上させることができます。その際、患者さんへの提案方法を工夫することが重要です。

例えば、患者さんに「いつ来られますか?」と聞くと、埋まりやすい時間帯を希望されることが多く、結果として予約が集中してしまいます。 このような場合は、以下のように具体的に提案することで、患者さんのスケジュールを調整しやすくなります

例:「平日の午前中や午後の早い時間であればすぐにご案内が可能です。」


このように、患者さんに具体的な時間を提示することで、埋まりにくい時間帯にも予約を入れることができ、結果として医院全体の診療スケジュールを効率化できます。

また、「午後の時間帯なら空いていますが、ご都合はいかがですか?」と聞くことで、患者さんに柔軟な選択肢を与えることも効果的です。

患者さんの状況に合わせた柔軟な提案

患者さんによって来院しやすい時間帯が異なるため、状況に応じた対応も大切です。それぞれのライフスタイルを考慮しながら、適切な時間帯を提案することで、無理なくスケジュールを埋めることができます。
午前中の予約が入りやすい患者さん
高齢の方などの自由な時間が多い方や、主婦層
昼休みの予約が入りやすい患者さん
仕事の休憩時間を利用して来院する会社員やパート勤務の方
夕方以降の予約が入りやすい患者さん
学生やフルタイムで働いている社会人

管理者による適切なアポイント調整

開業直後は、院長や現場リーダーが責任を持ってアポイントを管理することが望ましいです。予約の調整を経験の浅いスタッフに任せてしまうと、時間帯による偏りが生じやすくなり、結果的に非効率なスケジュールになる可能性があります。

患者さんへの配慮と、時間帯ごとの特性を活かした予約管理を徹底することで、医院全体の運営効率が向上します。特に埋まりにくい時間帯を効果的に活用することが、収益向上と患者さんの満足度向上に繋がります。

開業初年度の売り上げ目標と注意点

保険点数の管理

開業初年度は、行政からの新規指導に注意が必要です。特に、患者さん1人あたりの保険点数を1250点(12,500円)までに抑えることが推奨されます。

この点数管理は、保険診療の範囲で行われる収益が適切であると見なされ、行政からの指導を回避するための重要なポイントです。

過剰な点数の請求や不自然な診療計画は、トラブルの原因となる可能性があるため避けましょう。

初年度の売上目標

開業後、具体的な売上目標を段階的に設定することで、経営の基盤を安定させることが可能です。以下の目標を参考に計画を立てましょう。
3ヶ月目までに月350万円
損益分岐点を超えるための最初の大きな目標です。保険診療を中心に安定した患者数を確保し、広告や内覧会を活用して地域住民に医院を認知してもらうことが重要です。
6ヶ月目までに月500万円
保険診療を継続しながら、患者さんとの信頼関係を築くことで、自費診療の説明や案内を始める段階です。この時期に自費診療を少しずつ加えることで、収益の底上げが期待できます。
12ヶ月目までに月600万円
自費診療が売上の25%程度(約150万円)を占めるようになり、経営が安定してくる時期です。信頼と実績を積み重ねることで、継続的な患者数の確保と売上の向上が見込めます。

保険診療を中心にした運営

開業直後は、売上を安定させるために保険診療を中心とした運営を行うことが重要です。保険診療は、来院する患者さんに一定の収益を確保できるため、経営の基盤を築く上で欠かせない要素です。
診療枠の計画
1日8時間診療を行い、30分枠で16人を診る計画を立てます。これにより、保険診療だけで月250万円以上を確保できます。開業直後は週6日診療を行い、早期の収益化を目指しましょう。

まずは経営を安定させることから!

初年度は、保険診療を中心に経営を安定させることを第一目標とし、3ヶ月目までに月350万円、12ヶ月目までに月600万円の売上を達成する計画を立てましょう。

保険点数の管理や自費診療の提案に注意し、患者さんとの信頼関係を築きながら確実に目標に向かうことが、初年度の成功につながります。

自費診療へのアプローチと保険診療のバランス

自費診療の提案は慎重に

開業当初は、患者さんとの信頼関係が十分に構築されていない場合が多いため、自費診療の積極的な提案は控えましょう。強引な提案をすると、患者さんが不信感を抱き、悪評が広がる可能性もあります。

まずは、保険診療をしっかりと行い、患者さんに満足してもらうことで信頼を獲得することが優先です。 半年から1年が経つと、患者さんとの信頼関係が深まり、医院の評判も広がります。その結果、自費診療を希望する患者さんが自然と増えていきます。そのため、開業してから1年前後で売上全体の25%程度を自費診療が占めることを目標にすると良いでしょう。

保険診療とのバランス

開業初期の経営を安定させるためには、保険診療を基盤とした収益モデルが欠かせません。一方で、自費診療を徐々に導入することで、安定した運営と高い収益性の両立を図ることが可能です。
保険診療の役割
保険診療は、患者さんに一定額の料金を請求できるため、経営の基盤を安定させる役割を果たします。
目標は、毎月280〜300万円を保険診療で稼ぎ、運営経費を賄うことです。
自費診療の役割
自費診療は利益率が高いため、医院の収益を大きく向上させる要素となります。
目標は、毎月200万円以上を自費診療で確保し、利益部分として積み上げることです。

自費診療の導入に向けたステップ

患者さんのニーズを把握する
保険診療の過程で、患者さんのライフスタイルや価値観を把握し、最適な自費診療の提案を準備します。
わかりやすい説明を心がける
多くの患者さんは、保険と自費の違いを理解しておらず、できれば保険の範囲内で見て欲しい方が大半です。

そのため、まずは保険と自費の違いから、自費診療のメリット(見た目の美しさ、耐久性、治療効果の高さなど)を患者さんに丁寧に説明し、納得してもらうことが初めの一歩となります。
強引な提案を避ける
初期段階では、あくまで「選択肢の1つ」として提案し、患者さんが自ら選ぶ形にすることで信頼感を高めます。

どんなに自費での治療内容が保険での治療を明らかに上回っていたとしても、患者さんの理解を得られていない状態で押し売りすると、高確率で離脱してしまう可能性があります。そのため、常に低い姿勢で、丁寧に対応することが大切です。

保険診療と自費診療の理想的なバランス

保険診療
毎月の安定収益を確保する柱として機能します。保険診療で固定費をカバーすることで、経営のリスクを低減できます。
自費診療
利益率の高い部分として、月200万円以上を目指し、医院の収益性を向上させます。特に自費診療が売上全体の25%を超えると、安定と収益のバランスが良い状態といえます。

自費の提案は患者さんの信頼を得てから!

開業直後は保険診療を中心に運営し、経営を安定させることが重要です。その上で、患者さんとの信頼関係を築きながら自費診療を徐々に導入することで、収益性を向上させていきましょう。

保険診療で経費を賄いながら、自費診療を利益部分として積み上げるバランスを意識することで、持続可能な医院経営を実現できます。

人的トラブルへの対処とチームづくり

開業初期のスタッフ管理

開業直後は、医院運営の基盤がまだ整っておらず、スタッフ間でのトラブルや不一致が発生しやすい時期です。

特に新規採用したスタッフは、医院の方針や環境に慣れるまで時間がかかることがあります。このため、以下の点に注意してスタッフ管理を行いましょう。
試用期間中に適性を見極める
スタッフが医院の理念や運営方針に合っているか、またチームワークを大切にできるかを見極めます。

スタッフに明らかな問題がある場合は、試用期間内に対応し、必要であれば早めに退職や交代を決断することが重要です。長引くトラブルは、チーム全体の士気や患者さんへのサービス自体に悪影響を及ぼすため、慎重かつ素早い対応が求められます。
新規採用への柔軟な対応
新規開業の医院は、スタッフ採用が比較的しやすい時期です。問題がある場合でも、積極的に新たな採用活動を行い、適切な人材を確保することで医院の運営を安定させましょう。

チームワークの構築

スタッフ同士の信頼関係を築き、良好な職場環境を整えることは、患者さんへのサービス向上に直結します。以下のポイントを意識して、働きやすい環境を作りましょう。
定期的なコミュニケーション
朝礼やミーティングを通じて、医院の方針や診療スケジュールを共有します。また、スタッフから意見や提案を受け入れることで、相互の信頼感を高めます。
役割と責任の明確化
スタッフ一人ひとりの役割と責任を明確にし、業務が重複しないようにします。これにより、無駄な衝突を防ぎ、効率的なチーム運営が可能になります。
働きやすい環境の提供
休憩時間や福利厚生を充実させ、スタッフが安心して働ける環境を整備します。働きやすい職場環境を整えることによって、離職率の低下にもつながります。
成功体験を共有する
チームとして成功体験を共有することで、スタッフ全員が「一体感」を持ちやすくなります。

例えば、「患者さんから良い評価をいただいた」「スムーズに診療が進んだ」といった成果をスタッフ全員で共有し、達成感を感じられる機会を作ります。

患者さんへの悪影響を最小限にする

スタッフ間のトラブルが発生すると、患者さんへのサービス悪に影響を与える可能性があります。問題を解決するために医院に来院したのに、スタッフ全体の士気が悪かったりすると逆に患者さんを不安な気持ちにさせてしまします。

最悪の場合、Googleなどの口コミに悪い評価を付けられてしまい、新患獲得に大きな悪影響を与えてしまいます。

そのため、問題が生じた場合には迅速に解決し、トラブルを医院外に持ち出さないよう、院長が適切に指導することが大切です。チーム全体の士気が高く、スタッフが協力し合う環境は、患者さんにも信頼感と安心感を与えます。

チーム作りが成功への大きな一歩!

開業初期は、人的トラブルが発生しやすい時期ですが、適切な管理と柔軟な対応で乗り越えることが可能です。

スタッフ間の信頼関係を築き、働きやすい環境を整えることで、医院全体の運営が安定し、患者さんへのサービス向上につながります。試用期間中の適性判断と、チームの一体感を高める取り組みを継続的に行いましょう。

まとめ

歯科医院の経営は、明確な目標設定と戦略的な運営が求められます。特に開業直後の数ヶ月で損益分岐点を超え、安定した収益基盤を築くことが最優先です。

保険診療を基盤に、自費診療をバランスよく導入し、信頼関係を築きながら売上を伸ばしていきましょう。また、スタッフ管理やアポイントの工夫も経営成功の重要な要素です。

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