第7章 歯科医院開業のための銀行融資ガイド

はじめに:開業資金の準備が成功のカギ

歯科医院を開業することは、多くの歯科医師にとって大きな目標の1つなのではないでしょうか?しかし、夢を現実にするためには、クリアすべき課題がいくつかあります。その中でも「資金調達」は、最も重要かつ大きなハードルの一つと言えます。

特に最近では、CTやマイクロスコープなどの高性能機器を導入するケースが増えており、開業資金は6,000万〜7,000万円と大幅に増加しています。20年前であれば4,000万〜5,000万円程度で開業可能だったことを考えると、現在の開業環境がいかに変化しているかが分かります。

この記事では、開業資金の準備に不安を感じている方のために、自己資金の計画や銀行融資の選び方、返済計画の立て方まで、わかりやすくお伝えします。初めての開業でもスムーズに準備が進められるよう、ぜひ参考にしてみてください。

自己資金の準備はどのくらい必要?

融資を受ける際には、自己資金が審査の重要なポイントとなります。自己資金とは、文字通り「自分で準備した現金」のことで、融資を申し込む際に、金融機関が審査基準として重視します。

一般的な自己資金の目安は1,000万〜1,500万円ですが、場所や規模によってはもっと多くの資金が必要になることもあります。特に都心部のテナントでは、家賃や敷金が高額になる傾向があります。

例えば、都心部で月150万円のテナントを借りる場合、敷金が10ヶ月分必要となり、それだけで1,500万円が必要になります。これに加えて内装工事費や機器購入費を考えると、自己資金だけで賄うのは難しいため、銀行融資の活用が欠かせません。

ディーラーのサポートを上手に活用しよう

歯科医院の開業をサポートしてくれるディーラーは、事業計画書の作成や資金の見積もりなどで頼りになる存在です。しかし、ディーラーに事業計画書の作成をお願いする際には、いくつか注意すべきポイントがあります。

ディーラーが作成する事業計画書は、金融機関に提出する際の重要な資料となりますが、多くの場合、一般的なモデルや条件をもとに作成されています。 そのため、実際の開業地域や医院の特徴、競合状況が十分に反映されていないことがあるのです。

例えば、その地域の患者層や競合医院の数といった具体的なデータが含まれていない場合、計画の収支が現実とかけ離れてしまうこともあります。 このようなリスクを防ぐためにも、ディーラーの作成した計画書をそのまま鵜呑みにするのではなく、自分で地域や医院の状況を調査し、それに基づいて計画を修正することが大切です。

ディーラーのサポートを活用しながらも、自身で実態に即した計画を作る意識を持ちましょう。

金融機関の選び方と特徴

銀行融資を受ける際、どの金融機関を選ぶかは非常に重要です。歯科医院の場合、主に以下の3つの選択肢があります。

地方銀行や信用金庫

地域に密着しており、地元の中小企業や個人事業主に融資を行うケースが多いです。歯科医院の融資実績が豊富で、利率が比較的低いことが特徴です。

日本政策金融公庫

新規開業者を支援するための公的な融資機関です。審査基準がやや緩やかで、手厚い相談が受けられます。

都市銀行

規模が大きく、全国的に展開していますが、歯科医院のような個人開業向けにはあまり利用されません。

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例えば、関東エリアでは群馬銀行が歯科医院への融資に積極的で、利率も低いことで知られています。このように、開業予定地の金融機関を調べ、歯科業界への理解が深いところを選びましょう。

融資の種類:設備資金と運転資金

融資には主に以下の2種類があります。それぞれの特徴を理解し、適切に使い分けることが重要です。

設備資金

診療機器や内装工事、待合室の家具などの購入費用に充てられます。大きな初期費用が必要になる場合に活用します。

運転資金

開業後の運営に必要な資金です。例えば、スタッフの給与や家賃、消耗品費など、日々の運営にかかる費用を賄います。

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どちらの資金も、事業計画書の中で具体的に用途を明記する必要があります。事前にディーラーや税理士と相談しながら、適切な金額を見積もりましょう。

固定金利と変動金利:どっちが良い?

融資の金利には「固定金利」と「変動金利」の2種類があります。それぞれの特徴を理解した上で、医院の状況に合った選択をしましょう。

固定金利

契約時の利率が返済終了まで固定されるため、金利上昇リスクがありません。ただし、変動金利に比べて利率が高めに設定される傾向があります。

変動金利

市場の金利に応じて変動します。利率が低い時期には有利ですが、将来的な金利上昇リスクを考慮する必要があります。

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事業ローンは7〜15年の返済期間が一般的であるため、多くの歯科医院が当初の利率が低い変動金利を選んでいます。特に、短期間での返済や前倒し返済を予定している場合は、変動金利が適しています。

融資を受けるための具体的な手順

融資をスムーズに進めるためには、以下の手順を参考にしてください。

その1:必要資金の計画を立てる

ディーラーと相談し、設備資金と運転資金の見積もりを行います。

その2:金融機関を選定する

開業予定地の金融機関をリストアップし、候補を3つ程度に絞ります。

その3:融資申請をする

必要書類(事業計画書、自己資金証明書など)を準備し、複数の金融機関に相談します。

その4:融資契約を結ぶ

審査が通過したら契約を結びます。融資金は契約後約2週間で入金されます。

その5:返済計画を立てる

返済額が無理のない範囲に収まるよう、返済期間や金額を調整します。

返済計画の立て方と注意点

返済は、融資を受ける上で最も重要なポイントです。無理のない返済計画を立てることで、開業後の経営を安定させることができます。

返済期間は長めに設定する

一般的には、返済期間を15〜20年程度と長めに設定し、月々の返済額を抑えることが推奨されます。

前倒し返済のオプションを付ける

契約時に数万円を追加で支払うことで、途中で前倒し返済ができるオプションを付けることができます。

返済は経費として扱えない

返済額は経費ではないため、税引き後の利益から支払う必要があります。この点を忘れずに計算しておきましょう。

返済に困ったときの対応策:早めの相談がカギ

返済が難しくなると不安を感じるかもしれませんが、焦らずに早めの対応を心掛けましょう。以下のような場合には、適切な相談や対策を取ることが重要です。

日本政策金融公庫を活用する

政策金融公庫は、新規開業者にとって柔軟な対応が期待できる機関です。返済が滞りそうな場合や資金繰りに困ったときには、公庫に早めに相談しましょう。場合によっては、返済条件の見直しが可能なケースもあります。

収益が安定しない場合は早めに専門家に相談する

毎月の収入が300万~400万円に満たない状況が続く場合は、信頼できるブレーンやコンサルタントに相談することをおすすめします。収益が安定しない理由を特定し、適切な改善策を講じることで、経営の安定化を図ることができます。

立地の変更も視野に入れる

立地条件が大きな課題になっている場合、移転を検討することも一つの選択肢です。「移転」と聞くと大きな決断に思えますが、意外と簡単に収益が改善するケースもあります。近隣エリアへの移転を検討してみましょう。

具体的な融資事例

ここでは、実際の融資ケースをいくつかご紹介します。自分の状況と照らし合わせて参考にしてください。

事例1:連帯保証人ありの場合

融資額: 4,400万円
返済期間: 15年
金利: 変動金利0.85%
特徴
両親が保証人となり、低利率で融資を受けたケース。地方銀行や信用金庫が主な融資先。

事例2:連帯保証人なし(無担保)の場合

融資額: 5,000万円
返済期間: 15年
金利: 1.5%
特徴
保証人や担保がないため、金利がやや高めに設定されたケース。日本政策金融公庫と地方銀行を組み合わせて借り入れた。

返済計画を見直すときのポイント

融資を受けた後、経営状況に応じて返済計画を見直す必要が出てくる場合があります。以下のポイントを押さえておくと、見直しがスムーズです。

収益と支出のバランスを再確認する

月々の返済額が経営を圧迫していないかを定期的に確認しましょう。特に開業直後は、収益が安定するまで時間がかかることを想定して計画を立てることが大切です。

保険診療を活用して安定収益を確保する

自由診療に頼りすぎず、保険診療を中心に地元患者からの信頼を得ることで、収益の基盤を安定させることができます。

追加融資や条件変更も視野に入れる

経営が厳しい状況が続く場合は、追加融資や既存の融資条件の見直しを検討しましょう。特に日本政策金融公庫は、こうした相談に柔軟に対応してくれるケースが多いです。

まとめ

歯科医院の開業は、資金調達が最初の大きな課題となりますが、しっかりと準備をすれば確実に乗り越えられます。自己資金をどのくらい用意するべきか、どの金融機関を選ぶべきか、そして融資後の返済計画をどう立てるべきかを丁寧に考えることが、成功の鍵です。

また、開業後の経営状況を見ながら、必要に応じて融資条件の見直しやコンサルタントへの相談を行うことも重要です。開業はゴールではなくスタートです。そのスタートを力強く切るために、資金調達の知識をしっかりと身につけていきましょう。

この記事が、皆さんの開業準備に少しでも役立父いただけますと幸いです。

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