第9章 内装工事中に確認すべきポイント

はじめに

歯科医院の内装工事は、患者の快適性や医院の機能性を左右する重要なステップです。適切な設計や施工を行うことで、患者の満足度が向上し、スタッフが効率的に働ける環境が整います。
本記事では、内装工事を計画する際に押さえるべきポイントと、コストを抑えつつ高品質な歯科医院を実現するための方法を詳しく解説します。

内装工事の基礎知識

棟梁と下請け業者の役割

歯科医院の内装工事は、現場全体を取りまとめる「棟梁(とうりょう)」と、専門分野ごとに作業を分担する下請け業者が協力して進めていきます。 棟梁は施工全体を監督し、下請け業者を統括する重要な役割を担っています。

しかし、ここで注意が必要なのは、棟梁が歯科医院の内装に関する豊富な経験を持っていたとしても、実際の作業を担当する下請け業者が歯科医院の施工に不慣れな場合、不備が生じるリスクがある点です。

そのため、内装工事を依頼する際には、棟梁と下請け業者の両方が歯科医院の内装経験を有していることが重要な条件となります。

信頼できる業者の見極め方

信頼できる業者を見極める方法としては、過去の施工実績を確認することが最も確実です。特に、歯科医院の内装工事を20軒以上手掛けた実績がある業者であれば、歯科医院特有の注意点や課題について熟知しているため、安心して依頼することができるでしょう。

業者選定の段階で事例をしっかりと確認し、細かい質問にも丁寧に対応してくれるかどうかを見極めることが大切です。

快適で機能的な歯科医院を作る設計ポイント

歯科医院の設計では、患者さんとスタッフの「動線」をいかに効率的に配置するかが、医院全体の快適性と機能性に大きく関わります。
動線が適切でないと、患者さんが診療までの流れで迷ってしまったり、スタッフが患者さんと頻繁にすれ違う場面が増え、院内が混乱してしまうこともあります。

このような状況では、患者さんとスタッフ双方にストレスを与えるだけでなく、診療の効率や医院の運営にも悪影響を及ぼします。
それぞれのニーズに応じたより良い動線設計と空間づくりについて詳しく見ていきましょう。

患者さんに優しい院内環境

患者さんが快適に過ごせる歯科医院を目指すには、待合室や診療室など、患者さんが利用するスペースの設計が非常に重要です。

まず、待合室はリラックスできる広さを確保し、座席の配置や空間の雰囲気にも配慮しましょう。また、診療室も圧迫感を与えない十分な広さが望まれます。

さらに、乳幼児連れの患者さんのためにトイレへおむつ交換台を設置したり、車椅子の患者さんが利用しやすい通路幅(最低80cm以上)を確保するなど、バリアフリー設計を徹底することも欠かせません。

患者さんが快適に過ごせる院内環境を整えることにより、あらゆる患者さんが安心して通院できる歯科医院になります。こうした細やかな配慮が、「また来たい」と思われる医院づくりにつながります。

スタッフにとって仕事のしやすい院内環境

スタッフの働きやすさを考慮した空間づくりも、医院の運営を成功させるために重要です。たとえば、スタッフルームは、独立したスペースが理想ですが、スペースの確保が難しい場合には、カーテンで仕切るなどしてプライバシーを守る工夫をすることが大切です。

また、スタッフ間の連携を円滑にするためには、医局に大きめのホワイトボードを設置するのがおすすめです。ホワイトボードは業務内容やスケジュールの共有だけでなく、重要な連絡事項の掲示やコミュニケーションツールとしても活用できます。

さらに、器具の準備や後片付けを効率的に行うため、スタッフ専用の動線を確保し、無駄な移動を減らすこともポイントです。こうした工夫によって、スタッフがストレスなく働ける環境を整えることが可能になります。

設備と施工の注意点

歯科医院の内装工事では、照明や空調、コンセントの配置に細かく配慮することが、患者さんの快適さやスタッフの働きやすさにつながります。
また、バリアフリー対応やユニットの配置も、効率的で利用しやすい環境を作る上で重要です。以下で、それぞれのポイントを詳しく解説します。

照明の設置で空間を広げる

歯科医院の照明設計は、診療のしやすさを保ちながら、患者さんがリラックスできる空間を作り出すことが目的です。

天井に設置する明るいライトはもちろんですが、それだけでは空間が硬い印象になりがちです。そのため、壁際や棚の下部に間接照明を取り入れることで、柔らかな光の広がりを演出し、温かみのある空間を作ることができます。

診療室や待合室で適切な明るさを保ちながらも、場所ごとに雰囲気を変える工夫をすると良いでしょう。
おすすめポイント
  • 待合室には温かい色味の間接照明を取り入れることで、緊張を和らげる効果があります。
  • 診療室では、作業用の明るいライトと患者さんが眩しさを感じにくいスポット照明を併用すると良いです
  • 空調で快適な診療空間を実現

    エアコンの設置位置は、患者さんの快適性を左右する重要な要素です。エアコンの風が直接患者さんに当たってしまうと、不快感を覚える原因になります。そのため、ユニットに向けて風が流れないよう、エアコンを壁際や天井の高い位置に設置するのが理想です。

    もし、風向きを完全にコントロールすることが難しい場合は、風よけカバーを活用して、空気の流れを調整しましょう。また、待合室や診療室などの空間ごとに温度管理を行うために、エアコンのゾーニングも検討すると良いでしょう。
    注意点
  • 設計段階で、診療スペースの各ユニットに風が当たらない位置をしっかり確認する。
  • 待合室は比較的温度が安定しやすい反面、ドアの開閉が頻繁な場合は寒暖差が起きやすいので、追加の調整設備を検討する。
  • コンセントは「多すぎるくらい」がちょうど良い

    歯科医院では、診療器具や清掃機器、患者さん向けのデバイスなど、多くの電源が必要になります。そのため、コンセントは多めに設置することを意識しましょう。

    また、患者さんが利用する待合室には「ご自由にお使いください」と案内のあるコンセントを設置することで、患者さんの満足度を向上させることができます。 診療室では、器具や機材がすぐに使えるよう、ユニット周りに十分なコンセントを配置しておくことが重要です。
    具体的な配置例
  • 待合室:スマートフォンの充電に対応するUSBポート付きのコンセントを設置。
  • 診療室:ユニットごとに最低2つ以上のコンセントを配置。
  • バリアフリー対応とユニット配置

    歯科医院には、全ての患者さんが利用しやすい環境が求められます。そのため、バリアフリー設計は欠かせません。

    また、診療ユニットの配置も、患者さんのプライバシーや快適性、スタッフの作業効率を考慮することが大切です。以下のような配置が一般的ですが、医院の規模や診療方針によって調整が必要です。
    配置例
  • 個室ユニット(2台): プライバシーを重視したい患者さん向けに設置。リラックスできる空間づくりを意識。
  • オープンユニット(3台): 開放的で効率的な診療が可能。複数の患者さんを同時に診療する場面に対応しやすい。

  • また、診療室内のCTスキャンやレントゲン機器、洗い物をする水回りの設備は、どのユニットからも使いやすい位置に設置することが重要です。このように、患者さんの快適さとスタッフの作業効率を考えたレイアウトを設計段階でしっかり計画しましょう。

    工事スケジュールの管理と注意事項

    歯科医院の内装工事を成功させるには、計画的なスケジュール管理が欠かせません。設計段階から完成までの流れを把握し、各工程で注意すべきポイントを押さえておくことで、スムーズに工事を進めることができます。

    ここでは、工事の3つのステップや必要な期間、さらに工事中に心掛けたいことをご紹介します。

    3段階に分けられる工事のステップ

    歯科医院の内装工事は、大きく分けて以下の3段階で進行します。それぞれの工程で専門性が求められるため、事前に工程を理解しておくことが重要です。
    A工事(基礎工事)
    電力や動力を建物内に引き込むための基礎工事です。この段階で安定した電力供給が確保され、歯科設備を稼働させる土台が整えられます。
    B工事(配管工事)
    歯科診療に必要な水回りや配管設備を整備する工事です。ユニットやレントゲン機器、洗い場など、診療に欠かせない設備が適切に配置されるよう施工します。
    C工事(内装仕上げ工事)
    壁や床、天井などの内装を仕上げる最終工程です。この段階で医院のデザインや設備の細部が整えられ、患者さんを迎える準備が完了します。

    工期と進行中のポイント

    工事全体のスケジュールは、事前にしっかり計画しておくことが大切です。一般的なスケジュールの目安としては、以下の通りです。
    設計から工事開始まで: 約1ヶ月
    設計段階では、内装業者との打ち合わせを重ね、医院のコンセプトや設計図を確定します。この期間中に必要な設備や材料を決定し、工事の準備を進めます。
    工事期間: 約2ヶ月
    工事そのものは、A工事からC工事までおよそ2ヶ月程度を見込むのが一般的です。特に、配管や電気設備の工事がスムーズに進むよう、現場での確認が必要です。
    保健所のチェック: 約1ヶ月
    工事が完了した後、保健所の検査が行われます。このチェックに合格しないと開業できないため、設計段階で規則を満たしていることを確認し、工事中も細心の注意を払いましょう。
    着工のタイミング
    開業予定日の3ヶ月前には工事を開始するのが理想です。このスケジュールにより、万が一の遅延が発生しても、余裕を持って対処できます。

    注意事項

    工事を円滑に進め、満足のいく仕上がりを実現するためには、工事中の適切な対応が重要です。
    現場を定期的に訪問する
    工事が始まったら、数日に一度現場を訪問し、進捗を確認しましょう。直接現場を見ることで、図面では分かりにくい細部の確認ができます。また、差し入れを持参することで、現場の職人さんたちのモチベーションを上げる効果もあります。
    不備を早期に指摘する
    扉の建て付けや配線の位置など、小さな不備が見つかった場合は、すぐに内装業者に連絡しましょう。工事中であれば、追加費用をかけずに修正できる場合が多いため、早期対応が重要です。
    保健所の要件を再確認する
    工事が進む中で、保健所の規定に沿った設計が確実に反映されているかも随時確認する必要があります。待合室と診療スペースの間にドアを設置するなど、規定を見落とさないよう注意してください。

    内装完成後の装飾と設備

    内装工事が完了した後の仕上げとして、装飾や設備の整備を行うことで、医院の印象をさらに高め、患者さんにとって心地よい空間を作り上げることができます。特にロゴや看板の配置、装飾アイテムの選定は、医院のイメージを左右する重要なポイントです。ここでは、内装完成後に取り入れるべき装飾と設備について詳しく解説します。

    ロゴや看板の重要性

    歯科医院の認知度を高めるためには、ロゴや看板のデザインや配置に特に注意を払う必要があります。 患者さんにとって「どこに医院があるのか」「どのような雰囲気の医院なのか」が一目で伝わるように工夫しましょう。
    視認性を重視した看板
    看板は、遠くからでも一目で分かるデザインにすることが重要です。おしゃれさを追求するあまり、歯科医院であることが分かりにくいデザインにしてしまうと本末転倒です。特に夜間においても視認性が確保できるよう、明るさや配置に配慮しましょう。
    ポイント
  • シンプルなデザインで「歯科医院」と分かる文字を明記する。
  • 照明付きの看板やLEDライトを使用し、夜間でも目立つようにする。
  • 道路からの視認性が良い位置に設置する。
  • ロゴの活用
    ロゴは、医院のブランドイメージを象徴する重要な要素です。特に道路に面したガラスや入口のドアにロゴシールを貼ることで、医院の存在を強調し、患者さんに印象を残すことができます。

    ロゴは看板や院内装飾にも統一的に使用することで、プロフェッショナルなイメージを演出することができます。
    具体例
  • 道路側のガラスに大きめのロゴシールを貼る。
  • 名刺やパンフレットと同じデザインを内装の一部に取り入れる。
  • 必要なアイテムの選定

    内装が完成した後は、装飾品や設備を揃えて院内の雰囲気を整えることが大切です。患者さんが安心して過ごせる空間づくりを目指して、温かみのある装飾や配慮を心掛けましょう。
    院内に温かみをプラスする装飾品
    内装が整った医院には、時計や絵画、モニュメントなどの装飾品を取り入れると良いでしょう。これらのアイテムは、院内の殺風景さを和らげ、患者さんに落ち着いた印象を与える効果があります。
    おすすめの装飾品
  • 時計: 待合室に大きめの時計を設置し、視認性を確保。
  • 絵画や写真: 自然や癒しを感じさせるアートを選ぶとリラックス効果を高められます。
  • モニュメントやグリーン: 空間にアクセントを加え、温かみを演出。
  • キッズスペースの設置
    お子さま連れの患者さんが安心して過ごせるよう、キッズスペースを設置することも検討しましょう。

    このスペースは、常にスタッフの目が届く場所に配置することが大切です。また、スペースが広く確保できない場合でも、おもちゃや絵本などを少し置くだけで、お子さまが退屈せずに過ごせる工夫ができます。
    設置場所の例
  • 待合室の一角にキッズスペースを設け、親御さんが目を離さずに済むようにする。
  • 診療室近くにベビーカーを置けるスペースを確保する。
  • コストを抑える方法

    歯科医院の内装工事には大きな費用がかかるため、計画的にコストを抑える工夫をすることが大切です。特に、無駄な支出を防ぐためには、経験豊富な専門家のサポートや、工事の範囲を見極めるスキルが必要です。

    ここでは、コスト削減に効果的な具体的な方法を解説します。

    経験豊富なブレーンの活用

    内装工事を安価に抑えるためには、知識と経験を持った「ブレーン」のサポートを受けることが重要です。ブレーンとは、工事に関する技術的なアドバイスを提供し、費用面でも的確な調整を行える専門家のことです。

    適切なブレーンがいれば、工事費用の見積もりが「坪単価方式」ではなく「人月単位方式」で行われるようになります。
    坪単価方式との違い
    坪単価方式は、施工するスペースの広さで費用を計算するため、規模が大きいほど高額になりがちです。 一方で、人月単位方式は、工事に必要な作業量を基に計算するため、無駄な支出を抑えやすくなります。 経験豊富なブレーンを活用すれば、業者との交渉もスムーズに進み、より合理的な見積もりが得られるでしょう。
    ブレーン選びのポイント
  • 過去に歯科医院の内装工事をサポートした経験が豊富かどうかを確認する。
  • 工事費用だけでなく、スケジュール管理や品質面にもアドバイスができるかをチェックする。
  • 複数の業者と良好な関係を持ち、信頼できる提携先を紹介してくれるかを見極める。
  • 不要な工事の見極め

    内装工事のコストを抑えるためには、「本当に必要な工事」と「省略できる工事」を明確に区別することが重要です。特に、既存設備を活用できる場合は、それを生かすことで無駄な工事を削減できます。
    既存設備の活用
    A工事やB工事の簡略化: 以前も歯科医院として使用されていた場所であれば、電力設備や配管が整備されていることがあります。この場合、A工事やB工事を省略することで、工期の短縮と費用の削減が可能です。

    再利用可能な備品や設備の確認: 照明器具やドアノブ、カウンターなど、再利用可能なパーツがないか事前に確認しましょう。
    内装や設備の豪華さを見直す
    新規開業の場合、「医院の印象を良くしたい」と考えて内装や設備に過剰投資をしてしまうケースがあります。しかし、豪華すぎる内装は必ずしも患者さんの満足度や医院の運営に直結するわけではありません。
    具体的な工夫
  • 必要最低限のデザインで、患者さんに清潔感と安心感を与えるシンプルな内装を目指す。
  • 高価な設備を購入する前に、リースや中古品の活用を検討する。
  • コスト削減の成功例

    例えば、ある歯科医院では、既存の配管を生かし、A工事とB工事を簡略化することで、通常の工事費用から約200万円を削減しました。また、ブレーンを活用して複数の業者に見積もりを依頼し、最も適正な価格で工事を進めることができました。

    ーーー

    歯科医院の内装工事では、計画的なコスト管理が非常に重要です。経験豊富なブレーンの助言を受けることで、無駄を省きつつ必要な工事を適切に進めることができます。

    また、既存設備を活用したり、豪華すぎないシンプルな設計を心掛けることで、費用を抑えながらも高品質な仕上がりを実現できます。

    まとめ

    いかがでしたでしょうか?

    歯科医院の内装工事は、患者に快適な空間を提供し、スタッフの働きやすさを実現するための基盤となります。業者選びや設計、施工のポイントを押さえ、効率的で高品質な内装工事を目指しましょう。

    また、コスト意識を持ちながら計画的に進めることで、理想的な歯科医院を形にすることができます。開業に向けて、この記事が参考なれば幸いです。

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